の女予言者に近づ

ようし、ポレドラ」ベルディンがべたべたと足音をたてて進みでながら、うなるように言った。「ほんとうはなにが起きたんだ? 娘たちが生まれたあと、おれたちの師がおれたちのところへ

きて、あんたはもうこの世にいないと言った。おれたちはてっきりあんたが死んだってことだと思ったんだぜ。双子はそれから丸まる二ヵ月間泣きわめくし、おれは赤ん坊どもの世話をするはめ

になった。いったいなにが起きたんだ?」
「アルダーはあなたに嘘をついたわけじゃないわ、ベルディン」ポレドラは冷静に答えた。「まったく現実的な意味で、わたしはもうこの世にはいなかったの。いいこと、娘たちが生まれたあと

、アルダーとウルがわたしのところへ見えたのよ。ふたりはわたしに果たしてもらいたい大きな務めがあるが、それを果たすには同様に大きな犠牲を払うことになると言われたわ。その務めに備

えるために、わたしはあなたがたみんなをあとに残していかなければならないとね。はじめわたしは断わったのよ。でも、かれらがその務めの内容を説明してくださったとき、同意するしかなか

った。わたしは〈谷〉に背を向けてウルとともにプロルグへ行き、指示を受け取ったの。ときおりウルは不憫《ふびん》がって、自由にこの世へわたしを行かせ、わたしの家族がどうしているか
「あんたの言うとおりだろうな、ダーニク」老人は同意した。
「これから厩へ言って、厩番たちと話してきます」鍛冶屋は言った。「みんなは先へ行っててくれないか。すぐに追いつくよ」かれは向きを変えて部屋を出ていった。
「すぐれて実務的な人ね」ポレドラが感想をもらした。
「でもあのいたって実務的なうわべの陰に詩人が隠れているのよ、おかあさま――」ポルガラは微笑した。「――わたしがあの人のそういう面をどんなに楽しく思っているか、きっと信じていた

だけないと思うわ」
「いまが潮時だわ、おいぼれ狼。そろそろこの島を出ないとね」ポレドラは皮肉めかして言った。「あと二日もいれば、みんなが腰をすえてへたな詩を作りだすわよ」
 やがて召使いたちがやってきて、港へ運ぶ一行の荷物を持っていった。ガリオンたちは宮殿の廊下をひとかたまりになって進み、ダル・ペリヴォーの街路へ出た。夜があけたときはまばゆいほ

どの好天だったのに、西の空にぶあつい紫色の雲がわきあがって、コリムの空が荒れもようであることを雄弁に物語っていた。
「わかっちゃいるけどな」シルクがためいきをついた。「一度――たった一度でいいから、こういうめったにない出来事が上天気の中で起きるのを見たいもんだよ」
 ガリオンはその陽気な軽口の陰にひそんでいるものをじゅうぶんに理解していた。みんな、ある不安をかかえて明日という日を迎えようとしている。対決の起きる前に、仲間のひとりが命を落

とすというレオンでのシラディスの発言が、ひとりひとりの心に重くのしかかっていた。勝手知ったるやりかたで、ひとりひとりが恐怖を少しでも薄れさせようと努めているのだ。そこまで考え

たとき、ガリオンはあることを思いだして歩調を落とし、ケルいた。「シラディス」と目隠しをした娘に言った。「ザカーズとぼくは珊瑚礁についたら鎧兜を着なくちゃならな

いのか?」その朝、もう二度と鋼に身体をとじこめなくていいのだとほっとしながら着た上着の前をガリオンはひっぱった。「ぼくが言いたいのは、対決が完全に精神的なものであるならば、鎧

兜は不要なんじゃないかってことなんだが、どうなんだい? しかし、戦う可能性があるなら、また鎧を着る覚悟でいなけりゃならないだろう?」
「そなたの考えは手にとるようにわかる、リヴァのベルガリオン」シラディスはやさしくガリオンを叱った。「わたしがそなたと話しあってはならぬことをたずねて答えを引きだそうとたくらん

でいるのであろう。そなたの好きなようにすればよい、リヴァの王。しかし、いささかの鋼をあちこちにまとっておくことは、思慮分別から申せば、もしやのことがあった場合、役立つかもしれ

ぬ」